This article is originally published in Soils Matter, a publication of the Soil Science Society of America on March 1, 2021.
原文: https://soilsmatter.wordpress.com/2021/03/01/how-is-erosion-affecting-the-recovery-of-the-fukushima-area/

水食は福島の復興にどう影響しているのか?

2011年3月11日、日本は未曾有の東北地方太平洋沖地震を経験しました。それは日本の歴史上最大のものであり、大津波を引き起こし、日本の北東部沿岸部に衝撃を与えました。地震と津波の結果、福島第一原子力発電所のメルトダウンが発生しました。メルトダウンは、この地域に直接的、長期的な影響を与えました。アメリカ土壌科学会とアメリカ農学会では、この災害から10周年を迎えたことを知ってもらうための情報キャンペーンを実施しています。

原子炉のメルトダウンで周辺に放射性物質が拡散し、住民が避難することになりました。2013年から2017年まで避難した市民が自宅に戻り、生活を再開できるようにすることを目的とした除染作業が行われました。除染は主に住宅地、耕地、道路などで行われました。

福島は森林が多く、原発事故後の福島の森林には放射性セシウムが沈着していました。しかし、除染されたのは住民に影響のある森林の周縁部だけでした。これらの森林は、適切に管理されていなければ、流亡土砂の発生源となり、下流に位置する地域を汚染する可能性があります。


土砂や河川の流れを示す海岸と山間部の地域を示した福島の地図

日本はアジアモンスーン地域に属しているため、福島の年間降水量は多い。自然条件では、福島の植生は極相として広葉樹林に移行する傾向にあります。福島県は、面積の71%が森林で,森林の35%は主として広葉樹からなる天然林で、残りは針葉樹が植えられています。林床は一般的にリターで覆われており、雑草も繁茂しています。これらの森林の周辺部で除染作業が行われました。

森林は集水域として重要な役割を果たしています。この地域の重要な産業である農業は、森林からの表流水を利用した水資源に依存しています。森林に沈着したセシウムがどのような振る舞いをするでしょうか?森林に沈着したセシウムは表流水域に移動するのでしょうか?

化学用語で言うと、セシウムは一価の陽イオンで、正の電荷を持っています。これは、セシウムがある種の土壌粒子、特に粘土やリターの分解によって生じる有機粒子に「付着」することができることを意味しています。福島の河川水を分析した研究では、河川水に含まれる放射性セシウムのほとんどは懸濁物質に吸着しており、可溶性のものはわずかでした。これは、放射性セシウムが侵食に懸濁土砂とともに森林から他の地域へと移動する可能性を示唆しているかもしれません。

地形的には、福島は東から西に並ぶ3つの帯状の地域に分かれます。一番東側は沿岸部で、浜通りと呼ばれています。西に向かって、中通り、そして会津になります.それぞれの地域は、森林に覆われた山々で隔たれています。大まかに言うと中通りと浜通りを隔てる阿武隈山地の東斜面の土砂は沿岸部に向かって東に移動し、山地の西側の土砂は中通りの中心を北に流れる阿武隈川に流れ込みます。


福島の林縁での除染作業。写真提供:西村拓

阿武隈川の水質分析から原子力発電所の事故で沈着したセシウムの流出が少ないことが示唆されています。2011年の事故で沈着した放射性セシウムのうち阿武隈川を通って太平洋に排出されるのは、毎年約0.1%以下と考えられます。阿武隈山地の森林に沈着した放射性セシウムのほとんどが森林に残っており、そのうちのごく一部が流出していると言えます。

放射性セシウムには2種類あります。半減期が2年の134-Csと30年の137-Csで事故時にほぼ等量が放出されたと考えられています。つまり、原発事故から90年経った時点を考えると、(自然崩壊のみでCsが減る場合)初期沈着量の約16分の1の放射性セシウムが森林に存在していることになります。同じ90年間に生じる水食による放射性セシウムの減少は、放射性セシウムの自然崩壊よりもはるかに小さいといえます。

福島の森林からの土砂やセシウムの流出が少ないのはなぜか、沈着したセシウムはどこへ行くのか。福島県飯舘村の森林でGISを用いた水食のシミュレーションを行ったところ、森林内の土砂流出源は限られていることが示唆されました。侵食された土砂の中には、近くの斜面で堆積するものもあります。水流の近くの土砂流出源のみが、森林からの土砂やセシウムの流出に寄与している可能性があります。森林の樹冠、雑草、林床のリター層が発達していることが、森林内の土砂流出源が限られていることに寄与している可能性があります。


森からの小川の水は、福島の開拓農家にとって重要な水源となっている。写真提供:西村拓

森の中の放射性セシウムは、森の中を循環していると考えられています。樹木の根は土壌中の放射性セシウムを吸収し、葉に移動します。林床やリター層の落ち葉の分解により土壌にセシウムが供給され、根がセシウムの一部を吸収します。根のセシウム吸収と土壌中の粘土鉱物によるセシウム吸着の間には、競合があると考えられます。これは、粘土鉱物による吸い込みを伴うセシウム移動の閉じたループと考えることができます。このループは将来的には定常状態に達すると予想されます。

森林の状態が同じである限り、放射性セシウムは森林内に保持され、地域の人々の活動に影響を与える可能性は少ないと考えられます。森林のオーナーは森林を更新するために樹木を伐採するような管理を行います。(この時,植被が無くなり水食のリスクがますため)、森林からの侵食の影響を減らすために、樹木の伐採の時もしっかりと管理する必要があります。

森林、特に人工林は管理が必要です。福島県では、東日本大震災以前に人工林の8割が管理を必要としていましたが、2011年の震災以降、放射能汚染の影響でほとんどの管理が中断されています。適切な管理が行われていないと、森林の樹冠が不完全になるだけでなく、林床の状態が悪化し、土壌侵食のリスクが拡大する可能性が生じます。

回答者:東京大学 西村拓


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